「キッズ・リターン」 1996年 日本

B000UMP1GQキッズ・リターン [DVD]
北野武
バンダイビジュアル 2007-10-26

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 北野武の第6作品目となる本作。北野武らしく、生々しい現実と青臭い若者達の青春を金子賢安藤政信とともに"キタノ・ブルー"で描ききった。本作は北野武の書いた小説に近い、もっとも北野武らしい作品じゃないかと思う。
 ストーリーはとてもシンプルではあるけど、映像がとてもキレイだ。この時代(1996年)らしい雰囲気を醸し出していて、飾りっけなしの生活感あふれる映像なんだけど、色がキレイなのか構図がいいのか、ぐっと引き込まれる。音も少なく静かだけど、いざ音楽が流れるとジーンと突き刺さる。
 マネしようとしても撮れないだろう、「ザ・北野武」っていう映画じゃないだろうか。ラストも有名だけど、いいね。

 あらすじ
 マサル金子賢)とシンジ(安藤政信)はロクに高校にも行かず、行っても屋上でぼーっとしてるか、たまに教室に行っても他の生徒をからかうかしかせず、先生からはバカ呼ばわりされ疎まれる。
 マサルはどうしようもないワルで、カツアゲして遊び、気に入らないことがあれば殴って解決するしか能がない。そんなマサルにまともに付き合うやつはいないが、なぜかおとなしいシンジとだけは気があった。
 ある日、いつもと同じように街を歩いていたら、以前カツアゲをしたやつらが仕返しにボクサーをつれて来て痛めつけられる。マサルはいつかそいつを見つけてやっつけてやるとボクシングを始める。そしてなぜかシンジも巻き込まれて、ボクシングをやるハメになってしまうがシンジの方がボクシングの才能があることに気づかされ、マサルはさっさと辞めてしまう。
 その後、シンジはボクシングを続けていると、姿を消したマサルがヤクザになって戻って来た…

 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 マサルはまっすぐなやつだった。そしていつも全力で進みたがった。シンジはマサルにあこがれを持っていたが、あのスパーリングのせいで、立場が逆転してしまう。お互いに望んでいない結果を招いてしまう。マサルはそんな状況を認めたくなかった。マサルは自分の居場所が欲しい。自分が自分である場所、認められる場所、絶対にあるはずの場所を探し、それがボクシングだと思っていたが、そうではなかった。だから、またマサルは次に進みたがった。そして男としてあこがれを持っていたヤクザの道に進む。
 シンジは意図せずして周りから認められる立場になってしまった。ただ、シンジはボクシングが好きで始めた訳ではない。もともと主体性がなく、マサルというあこがれを追いかけていただけなのに、マサルはいなくなってしまった。会長に気に入られ、主体性の無さの裏返しとしての従順さによりメキメキレベルアップしていっていたのに、ハヤシの「会長の言うことばかり気にしていちゃいけない」という悪魔のささやきに惑わされる。シンジ自身、きっと自分の主体性の無さはわかっていたのだろう。でもボクシングを続けて強くなることで自分を見いだそうとしていたのに、ハヤシによってマサルの存在が会長になっただけということを気づかされる。
 ハヤシからすればシンジなんてどうでもよかった。むしろシンジを落として、昔の栄光、ジムをしょって立つ存在に戻りたかったのだ。新人王を穫ったころはチヤホヤされていたんだろう。でも若手が台頭してきて自分の居場所がなくなってしまう。ハヤシは自分の才能の限界を感じているからまともに練習もしない。でも一番にはなりたい。だから試合では反則にたより、ジムでは自分をあげるのではなく、他人を下げようとする。イーグルはおそらくその罠にまんまとハマり、最後には薬に頼らなければ減量すらできなくなる。いっちょあがりと思ったら次はシンジが台頭してきやがった。イーグルはもう終わったから次はシンジだ。こうしてシンジは落ちて行ってしまった。
 マサルはヤクザとして持ち前のまっすぐさのため、メキメキと上って行く。ようやく自分に自身を取り戻した頃、親友であるシンジに会いに行こうと思った。世の中からは疎まれる存在ではあったが、男としてきっとシンジに認められると思った。純粋に自分もシンジもようやく居場所を見つけ、あとは上って行くだけだと思っていた。ところが親分が殺されてしまう。もともとマサルは組織の中で調和することができなかったタイプでそれは高校だけではなく、ヤクザという超縦社会の中でも変らなかった。ただただ親分に気に入られて上っていったのに、バックであるその親分が死んでしまって先が見えなくなってしまったために、あっという間に追い出されてしまった。
 一度はつかみかけた夢だったのに、つかめなかった。お互い、自分自身が成長しなかった。シンジは主体性を持てなかったし、マサルは人と調和することができなかった。でも自分が変らないまま、環境を変えることですべてがうまく行くところが見つかると思っていたが、それはバカなことだった。
 「もう俺たち終わっちゃったのかなぁ」「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねぇよ」
 挫折したが、いつか自分の居場所をつかめるはずだ。希望を持てるセリフではあるが、でも結局は同じところをぐるぐる回って、ただ同じ失敗を繰り返すのだろうか。挫折から得るものがあって、成長することができるのだろうか。できると信じたい。