「東京アンダーワールド」 2000年

404247103X東京アンダーワールド (角川文庫)
Robert Whiting 松井 みどり
角川書店 2002-04

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 第2次世界大戦終戦からわずか3日後、戦後の混乱の中でヤミ市の広告が新聞に乗る。戦後最初の起業家はヤクザだった。ヤミ市にはありとあらゆる人たちが、ありとあらゆるものを求め、売りにやってくるるつぼだ。その中には日本人だけではなく、韓国人や中国人、そして戦利国で圧倒的優位な地位にいるはずの白人もやってくる。白人もそれぞれで、中には"不良ガイジン"と言われる奴らもやってくる。
 本書は、その"不良ガイジン"の一人で、戦後の日本で最も裏社会で成功した、ニック・ザペッティを主人公とし、そのニックから見た戦後日本の裏社会を暴くというスタイルのノン・フィクションである。
 ニックが開いたイタリアン・レストランには様々なやつがやってくる。祖国の料理であるピザに飢えてやってくるアメリカ人、日本人ヤクザと熾烈な争いをしている韓国系ヤクザ、力道山をはじめとするプロレスラー、さらには皇太子までやってくる。いろんな奴らがやってくればいろんな出来事が起こる。ヤクザのケンカに巻き込まれ、詐欺師にはだまされ…でもニックはヤミ社会の奴らとうまく付き合いながら、巨万の富を築いていく。
 ニックは何十年も日本に住着くが、あくまでアメリカ人としてのアイデンティティを崩さない。だから、日本人の誰よりも冷静に間近に見続けたのだ。そうしてじっと見ていると、「ホンネとタテマエ」の日本人、腐敗しきった政治、排他的な精神と言うものがわかってくる。
 本書を読んでいて印象に残ることは、アメリカ人からみて(少なくとも当時の)日本人は、賄賂にまみれて腐敗しきり、他国の人間に厳しく、他国の技術をパクることも厭わない奴らだという思いがあるということ。これって、日本人が今中国人に対して思うことと同じだなぁということ。今の日本はさすがにそうではないと思うが(腐敗はあるかも知れんが、昔ほどあからさまではないだろうし、技術だって昔みたいに平気で産業スパイを送る様なことはしまい)、それはある程度のレベルまで日本が上り詰め、自らで歩むだけの力を蓄えたからであろう。そんな今、中国も徐々に技術力を蓄えるごとに日本の様になっていくのかなぁと思う。
 また、こんなにもまぁあからさまに政治とヤクザのつながりを書いたものだなと。こんなに堂々と流通していい本なのか?これ?(笑)しかし、ここでもいわゆるアメリカのマフィアと日本のヤクザの違いってものに興味を覚える。特に日本のヤクザが頂点を極めたときに、政治家顔負けの平和主義者的発言をするのは滑稽でもあり驚異でもある。まぁ本心からそう思っているかはわからないが。また、アウトサイダーの集団にも関わらず、エリート集団の金融マンよろしく経済用語を連発し、非合法的手段も使うとはいえ、株式や金融商品を取り扱うというのも何か皮肉だ。
 とまぁ、すべてソースを自分で追った訳ではないので、若干信じきれない部分はあるにせよ、十分読み応えがある、スリリングでわくわくするノン・フィクションだったのは間違いない。面白い一冊である。