「イン ザ・ミソスープ」 1997年

イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)

イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)

 村上龍から離れられない。一気に読み上げてしまった。
 あいも変わらず暴力とセックスである。もっとも今回はドラッグは出てこないし、セックスも直接的にはでてこない。ただ、舞台は歌舞伎町であり、セックスをするために徘徊するし、ドラッグを打っているかのような精神世界に踏み込んでしまっている。
 しかし、なんだって村上龍はこんなストーリーが思いつくのだろうか?途中からやっぱり物語りは急変して行き、読んでる人間を放さない。明日は早いってのに、「読みきらないと」という脅迫概念に迫られるかのように貪り読んでしまった。

 あらすじ
 ケンジは20歳という若さながら、歌舞伎町で外国人相手に、風俗のガイドという仕事をしている。日本の風俗のシステムを紹介し、いい店に連れて行くというこの商売はいいカネになるのだ。
 もう、その年も後3日で終わろうとするころ、フランクというアメリカ人から3日間のガイドの依頼を受ける。一見すると普通のアメリカ人だが、ふとした瞬間に見せる表情や行動に違和感を感じる。
 1日目の仕事が終わった次の日、女子高生がバラバラ殺人に会う事件が発生する。ケンジはなんとなくその殺人事件とフランクに関係性があるような感覚を覚える。そして二日目、フランクと"お見合いパブ"に行き…

 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 唐突に物語りは急変する。 "お見合いパブ"でボッタクリに会いそうになったその瞬間からものの2,3ページで地獄絵図へと変わっていく。2,3ページの間、惨劇を見続けるのだが、ケンジと同様、俺も付いていけてなくて、"ハッ"とその血に気付く感じ。
 やっぱりフランクは殺人者だったのかと、限りなく黒色に近い疑惑が、はっきりと黒になる。大した違いはなさそうなのだが、まったく見る目が変わってしまう。考えられる最悪の状態を突きつけられたからだ。
 もちろん催眠術になんかかかってなかったが、そもそもかける必要もないほどにケンジはフランクの中でもてあそばれている。家もそうだし、警察に行かないことも、ジュンの存在も、すべてフランクの手中の中にあった。だからケンジにとってフランクは恐怖の塊と見えたのだろう。フランクはどす黒く、しかも深い闇なのだ。
 後半になり、フランクはケンジにその深い闇のガイドになる。フランクの語ることはこれまで嘘で固められていたから、その話が本当かどうかなんてまったく保証はないのだが、ケンジも俺も疑うことすらできない。まるで催眠術をかけられるかのように。
 この物語は最後がよかった。除夜の鐘のくだりもよかったが、題名どおり、ミソスープのくだりが好きだな。そしてフッっと消えていなくなるところも。結局フランクなんて人間はいなかったのではないかと思わせるぐらいの感じ、殺人事件なんて何も起こってなくて、ただフランクと仲良くスプラッター映画でも観てきたかのような感じ。あんなにグロい話なのに、妙にすがすがしく、冬の空気の透明感を感じさせられたのがよかった。