DPI(Deep Packet Inspection)について一言
DPIは悪なのか? 「ネット全履歴もとに広告」総務省容認 課題は流出対策」について思うこと。:ASSIOMA:ITmedia オルタナティブ・ブログ
上記の記事でDPIに対する擁護記事が乗っていたのですが、いくつか「それ論点ずれてない?」っていう部分があったので指摘しておく。
DPIは技術であり、それ自身が責められるべきではない
著者の言うとおりDPIは広告配信だけに使われているものではないので、それ自身を目の敵にしてはいけないというのはわかる。
ただし、だからといってDPI技術を用いて広告を配信したっていいじゃない?とはならないのだが、該当記事はこれで免責されたように扱っている。
DPIは誰が得するのか
著者はDPIの応用として、1.トラフィック監視、2.帯域制御、3.セキュリティ、4.広告の4つの分野で活躍しているという。
ただ、これらを見た中で?だけが明らかにほかと異なる。それはユーザが得するかどうかだ。1〜3はそれらの活動を通じて、一般ユーザが安心してネットを使えるという名目が立つ。だからパケットの中身を見ることを許容する。さらに1〜3はパケットを見るとしても、それがどのプロトコルなのか、どれぐらいのパケット数(通信量なのか)程度しか見ない。それに対して?はすべてのパケットの中身を見て、ユーザの嗜好を読み解こうとするのだ。*1
通信事業者はパケットの増大に苦しんでいる
「知ったことか」という一言で終わる。だったらAT&Tのように値上げするなり、 M&Aで統合して効率化するのが筋だろう。「赤字だから通信を見させて」っていうのはおかしい。通信の秘密ってそんなに軽々しいものなんだっけ?
ユーザーが反対するその他のポイント
消費者がこの話に対して批判的なのは他にも理由があると思う。そのひとつが広告会社の存在だ。図にあったとおり、通信事業者は広告会社に対してユーザの情報を送るとしている。これに対して3つの事柄がDPIによる広告をよりいっそう気持ちの悪いものにさせる。それは1.どこまで渡すのか、2.広告会社って誰なのか、3.その結果どう返ってくるのかの3点だ。
1.まさか氏名や住所を渡したりしないとは思うが、でもパケットをそのまま見せたら通販で何を買ったか、そしてそのとき入力した住所とか見れしまう。どんな形で渡すかがわからないのが不気味だ。ユーザのIPアドレス*2とURLとそのアクセス時間のリストを渡すのだろうか?何が渡るかわからないのが怖い。
2.通信事業者とはユーザが契約しているわけだし、ある程度の信用はある。ただ、広告会社って誰なんだと。どこのどいつなんだ?ってのが不安をあおる。
3.最後はそれがどうやって帰ってくるのかだ。通信事業者から見て、ユーザは1契約に対して何人いるのかわからない。だからお父さんがムフフなサイトを閲覧し、娘が消費者金融で借金しまくって高級ブランドを買いあさっていたとしたときに、それをごちゃ混ぜに広告を配信する可能性があるのだ。Googleや Appleはユーザ一人に対するリコメンドであり、他の家族に影響をお及ぼさないし、そもそも広告が表示される場所は自分で把握できる範囲だ。ただ通信事業者はインターネット全体を見られ*3、しかもそれがどう自分に跳ね返ってくるのかがわからない。ここが不気味だ。
望むべき議論の方向
以上から、ユーザに対するメリット、何の情報を見られるのか、どこにその情報が反映されて影響を受けるのかの3点を明確化する必要がある。
逆にこれらをクリアすれば、別にいいんじゃない?とも思う。昔ライブドアがやっていた、広告がつく代わりにダイヤルアップが無料ってのが技術が一周して戻ってきた感があってわくわくしてくる。広告つけるから安い通信事業者と広告つけないから高い通信事業者に分かれれば、それはそれでフェアじゃないだろうか。
最悪は今の中途半端な議論のまま承認されて、各通信事業者が飛びついて、ユーザに対して問答無用に導入が進み、でも価格は変わらない(今の通信事業者の赤字補填に使われて終了)というシナリオだ。こうはならないことを祈る。