CSRの新たな一歩

 皆さんは松下電器から例のナショナルFF式石油暖房機に関するはがきは届きましたか?
 最近コンプライアンスという言葉は浸透し、企業は社会的責任(CSR・SR:Corporate Social Responsibility)を強く負うようになってきた。時に企業はどうしても不祥事やインシデントを起こしてしまうが、そのときの対応というものが重要になってきた。
 企業はインシデント発生時に大きく2つのパターンから選択を迫られる。一つは、「企業に責任は無かった」「どうしようも無かった」と言い逃れして時間がたつのを待つパターン。もう一つは、「すべてわが企業の責任だった」「結果的に大きな問題となってしまい、謝罪したい」とすべての責任を認め、実行するパターン。
 前者は最初を食い止めれば後はグレーになり、そのうち元に戻るタイプ。後者は最初に大きな痛手を負うが、きれいさっぱり清算するタイプ。前はこの2つはどちらも同じぐらい選択され、同じぐらいのダメージですんだような気がする。代表的なものとしては、前者はヒューザー雪印であり、後者はジャパネットタカタなどであろう。
 しかしCSRという概念が浸透した今ではまったく違ってきている。この松下電器のパターンがそれであろう。ここで言いたいことは、従来の2方法は贖罪のための行動であり、自社に降りかかった問題を最小限に食い止める、あるいは元の状態に戻るための行動であったのに対し、松下電器が行ったことは、CSRを強く前面に押し出し、このインシデントすらアピールポイントにしてしまい、元の状態以上へ持っていこうとしたことである。
 松下電器は何度もCMで謝罪広告を出し、責任を全面的に認めた。僕はこの時点で、悲痛なまでに謝罪をし、その殺風景なCMに同情すらした。しかし、松下電器はそれだけでなく、さらに配達地域指定冊子小包郵便物(タウンプラス)と呼ばれるサービスを通じて消費者に積極的に宣伝を行った。
 僕はこの配達地域指定冊子小包郵便物を使った謝罪をするというニュースを聞いたときに、「しまった!そういうつもりか!」と思った。「やられた。松下はこれを宣伝にまで仕立て上げ、消費者に『ここまでやるか』と思わせることで、更なる信頼を得るつもりなんだ」。
 松下電器の広報は本当に優れていると言える。逆境をここまでプラスにする方法があったなんて誰が気づくだろうか。この広告を見て、誰が松下電器を恨むだろうか。
 僕はこの逆境を逆手にとって、それを宣伝にまで仕立て上げた松下電器に対してまったく嫌悪感を抱かない。なぜならCSRという概念はこれによってさらに一歩進み、良い循環に入る可能性があると言えるからだ。
 今後もどこかの会社が同じようにインシデントを起こすだろう。インシデントの発生率を0に近づけることはできても、0にはできない。そのときその企業は今回のようにさらに消費者からの信頼を得る戦略を取るだろうか。果たしてそれはうまくいくのだろうか…これは消費者次第である。消費者がCSRを認知し、強く意識することによって、企業はよりCSRを意識する。そうすれば責任逃れ戦法を取る企業は減り、そもそもインシデントを起こさない対策がすすみ、最終的には消費者の安全、社会的発達は進むであろうからだ。