「箱男」

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 砂の女を読んで、とても面白かったので本書を買ってみた。この本はメタルギア・ソリッドのスネークが段ボールをかぶる元ネタとなった小説らしい。
 本書は、何度も読まれることを前提として、構造的に非常に複雑になっている。読んでいて訳がわからなくなってくる。面白いことは面白いのだが、なんせ読みにくいので、何度も読む気にはならなかった…

 あらすじ
 私は、箱男だ。
 約1.5mの段ボールに穴を開け、中には懐中電灯やらをぶら下げている。それを頭からかぶり、街に潜む。それが箱男だ。
 見たことが無い?それはあなたが単に見ていないだけで、箱男は町中にいる。人々の視界にはきっと入っているはずだ。けど人々は無意識に視界から外している。なかったことにしているのだ。だから私は店から野菜を盗ったってお咎めが無い。
 そんな私に、段ボールを5万円で売ってくれというやつがいる。たかだか段ボールに5万円だ?自分で探せばただですぐに手に入るというのに…

 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 この本は、本当に読みづらい。読んでてイライラしてくるぐらいだ。でも面白い。
 最初のAの場合は、読んでて怖くなる。なぜか読んでいる俺自身も箱男に魅力を感じてしまからだ。読む前は「箱男なんて変なやつ」と思うのだが、いきなりのAの場合を見ると、「もし本当に目の前に、いや家のちょっと先に箱男がいたら、果たして俺は冷静でいられるだろうか?」という不安に駆られる。実際に目の当たりにして、耐えられる保証はない。
 箱男に共感する理由の一つとして、「段ボール箱」を「部屋」、「自分の殻」などに置き換えてみると、さも自閉症の患者のレポートのように見えてくる。段ボールは自分を守る壁なのだ。段ボールの中の自分は最強だ。だって自分の世界だから。しかしその外に出ることを非常に怖がる。他人の視線が怖い。それを端的に示しているのが段ボール。また段ボールという形にすることで、自分の殻に閉じこもっている読者を嘲笑う。人間誰でも多少の「殻」を持っている。けど、その「殻」を「段ボール箱」と等価に扱われ、その「段ボール」をまとった箱男を滑稽に扱われることで、自分自身も笑われているように感じる。こうして「自分」は「箱男」と等価になり、感情移入が始まるのだ。