「虎よ、虎よ!」 1956年 アメリカ

 アルフレッド・ベスター。この男に常識というものはあるのだろうか?たった1冊のSF小説に、あきれ返るほどのSFのアイデアが詰め込まれている。テレポーテーション能力の「ジョウント」やテレパシー能力、すべての文明から離れていった科学者の末裔、放射能の犯された男に、全感覚を失おうとする宗教集団…どれもこれもひとつのネタで1冊かけるんじゃないかと思うが、それをぎゅうぎゅうに詰め込んだのがこの本だ。また小説という形式に対する挑戦として、文字が文字通り踊り狂っている。文字が狂えば、読むほうの頭も狂うというものですよ。
 突拍子も無くいろんな能力が出てくるし、展開も激しいので、突っ込みどころも多い。しかし、圧倒的な勢いでいつの間にかはまっている自分がいる。主人公のガリー・フォイルが命をかけて復習に"燃える"様を見ていると、細かい突っ込みどころなんて忘れてしまう。それほどの作品なのだ。

 あらすじ
 24世紀。人々はジョウントと呼ばれるテレポーテーション能力を標準的に備えており、能力により人々は星々の至る所に住めるようになった。しかし制約も多く、星間の様に距離があるとジョウントでは移動できなかった。
 星と星をつなぐ輸送機で働いていたガリー・フォイルは、目立つ能力も無く、頭も決して良くはなく、平凡中の平凡な人間だった。ところが突然何者かに輸送機が攻撃され、フォイルは一人残骸の中で生き残った。唯一、しぶといことだけが取り柄のフォイルはなんと171日も一人で生き残り続けた。その171日目、ついにフォイルのそばに宇宙船が現れた。フォイルは必死に自分の存在をアピールし、宇宙船もフォイルに気付いたようだったが、なんと宇宙船はフォイルを見捨てて過ぎ去って行った。
 フォイルは怒り狂い、その宇宙船「ヴォーガ」に絶対の復讐を誓った。