「崖の上のポニョ」 2008年 日本

B0021D5ETQ崖の上のポニョ [DVD]
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント 2009-07-03

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 この作品はすごい。宮崎駿がここ数作の間に模索していたものがすべて詰め込まれた結晶のような作品である。
 基本的にジブリ作品は必ず観てきた。ほとんど義務的に。作品としてはもののけ姫までは楽しく観れたが、千と千尋以降はどうしても好きになれず、ハウルの動く城ジブリを見限ったのだった。作風としても、もののけ姫まではシリアスで絵柄も大人向けだったところから、千と千尋以降の子供向け指向に変わったと感じていた。
 でも本作で、千と千尋以降、宮崎駿が何がしたかったのかがわかったような気がする。宮崎は後世に残る神話・おとぎ話のたぐいのものを作りたかったんだと感じた。ストーリー展開も俺たちが小さい頃に聞いた桃太郎やシンデレラのようなシンプルさを感じる。
 絵的にもあの荒唐無稽な描き方というか、物理法則や遠近法にうるさい宮崎駿(物理法則はいつも無視してそうだけど、宮崎ルールのようなものがあって、しっかりと守られていたりする)がそれらを無視して描いている。でも無理がないというか写実的な画家が抽象画に転向したような自然さがある。これは宮崎だから許される表現だなと感じた。
 しかし、物語は非常に抽象的・象徴的で、難解だ。子供がほわんと観るならまだしも、大人がマジで観るとわからない。隅々にちりばめられた伏線・象徴は何回みても新しい解釈が入ってきそうな作品である。本作は宮崎駿が切り開いた新しい領域への挑戦の集大成なのだ。

 あらすじ
 謎の科学者?フジモリにとらえられていた魚のポニョは、隙をついて逃げ出し、大海原へ駆け出す。ところが大波にさらわれ瀕死の状態で海辺にたどり着く。そんなポニョを少年のそうすけが助け出す。大事に育てようとするが、ポニョはフジモトに再び連れ戻されてしまう。
 しかしポニョはフジモトに連れ戻されたときには、そうすけのように人間になりたいと強く思うようになる。そうすけのケガをなめたことのあるポニョは、その血を飲んだことで人間に変身できるようになっていた。
 人間に変身したポニョは再びそうすけのもとへ戻り、一緒に住もうとするが…

 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 もうね、ひたすらポニョがかわいい(笑)トトロのメイといい勝負をする(笑)その一方でストーリーとしては非常に難解である。わけがわからんところもいっぱいある。でもだからこそ解釈が膨らむ。
 正直、最初観たときは「あれっ?」っていう終わり方だった。そこまでの盛り上げ方に比べてあっさりした終わり方だからだ。たった3つの簡単な質問に「はい」と答えるだけでハッピーエンド。なんかもの足りなかった。そこまで俺の中でとある妄想が膨らんでいた。
 それは、そうすけとポニョがリサの車を発見したとき、これはリサの死を暗示している。道半ばで波にさらわれ溺死してしまうのだ。ひまわりの人たちも同様に溺死してしまう。この嵐はフジモリたち両親が仕掛けた罠なのだ。そしてフジモリ達は彼女達を人質にとる。
 そうすけたちがトンネルを超えるとき、これは”あの世”への入り口だったのだ。トトロや千と千尋とかにもあるようにトンネルは異界への入り口なのだ。
 そうやって死の世界へ潜り込んだそうすけたちの前にフジモリが3つの質問をする。
 ここで、てっきり俺は「リサやおばあちゃんたちを生き返らせるか、ポニョを人間にするか、どちらがいい?」というようなえげつない質問をしてくるものだと思っていた。ところが実際の質問は簡単なものだったので、予想がはずれてしまい、あっけにとられてしまった。
 でも、後で振り返ると、俺の想像もそう間違ってはいない気がする。質問をする際に、「間違えたらどうするか」を言っていないのだ。なので、もしかすると、質問を間違えてしまうと、リサ達は死に、ポニョは再びとらえられ、そうすけも命が奪われるのではなかったろうか…そう思うと、鳥肌が立ってきた。
 よけいなシーンをいっさい省き、説明も何もないので、非常に難解ではあるが、多分みんな似たようなことを考えているのではないだろうか。
 実際、2chでも同じようなことを考えている人がいた。というか、この人の考察すげぇ。ここまで細かくはわからんかったわ。でもナンバープレートが333は気付いたよ!