「ダーウィンの悪夢」 2004年 フランス=オーストリア=ベルギー

B000PIT0RQダーウィンの悪夢 デラックス版 [DVD]
ジェネオン エンタテインメント 2007-07-06

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 ほんとは先日神戸で「硫黄島からの手紙」を観た次の日に、どうしても観たくて一人で観たのですが、感想書くのを遅くなってしまいました。

 さて、いかにも俺が好きそうなタイトルですが、やっぱりいい映画でした。淡水湖としては世界第2位(塩水も含むと3位)の広さを持つアフリカ ビクトリア湖にある魚が数匹放流される。しかしその数匹は天敵がいなかったことから、在来魚を駆逐し爆発的に繁殖することになる。これだけなら琵琶湖のブラックバスと似たところであるが、問題はその魚。”ナイルパーチ”と呼ばれる魚は、数メートル級まで巨大化する魚なのだ。ちなみに…”ナイルパーチ”と聞いてもピンとこないだろうが、つい数年前まで”白スズキ”と言う名で日本でも魚のフライの冷凍食品の材料として売られていたものだ(今は法改正により”ナイルパーチ”と書かれているはず)。しかも日本は欧州についで2番目の輸入量を誇る。遠い国の話ではない。

 そして、その大きな魚は漁業として成り立つほどに多く、大きい。貧しいタンザニアの人たちにとってそれは生きていくための職業として成り立ち、一台産業にのし上がるに十分なものだが、その影もまた大きいものなのだ。この映画は”ナイルパーチ”が落としていった腑の部分にフォーカスした映画だ。

 あらすじ
 アフリカにあるビクトリア湖(世界2位の淡水湖)に半世紀ほど前に”ナイルパーチ”と呼ばれる魚が放流される。ナイルパーチは天敵の不在から、在来魚を駆逐し、食物連鎖の頂点に立つ。大きく、繁殖力が強いナイルパーチに目をつけた人々が、漁業としての一大産業を築きあげる。
 ナイルパーチは主に輸出用として売られる。毎日何度も欧州から輸送用の飛行機がやってくる。しかし飛行機は空でやって来て、満杯に魚をつめて帰っていく。通常の輸入・輸出関係ではなく、あくまで出て行く一方で何も入ってくることは無い。
 一大産業として成り立ち、人々がビクトリア湖周辺に群がることにより、さまざまな問題が沸き起こる。出稼ぎの人が来ると、アフリカで問題になっているエイズが持ち込まれる。親が死ぬことでストリートチルドレンが増えて行き、残された妻は売春婦になり、そして独身の出稼ぎの人がエイズにかかり蔓延していく。
 そうした負のサイクルに解決の方法は?

 <ここからネタバレ!!>
 これはナイルパーチを中心とした一つの”系”なのだ。単純な食物連鎖としての系ではなく、産業・人のつながり・食のつながりすべてを含んだ系なのだ。
 この映画でもっとも深刻であること、それは解決への提案が無いことだ。これはパイロットの発言「どうしたらいいかわからない」というセリフに集約される。これは単なるパイロットの発言ではなく、フーベルト・ザウパーの心の言葉を投影したものなのだ。
 どちらかと言うと、最後に提示される”黒い輸入”よりも、ナイルパーチの食の連鎖のほうに衝撃を受けた。供給過多で悩みながらも、現地の人はナイルパーチを食することができない。それは単に輸入用に加工された魚は高すぎて食べられないからである。輸入用の魚は徹底的に衛生管理された工場で加工される。工場のシーンを見てのとおり、一つのラインあたりに4,5人の人が担当している。これは人件費が安い国ならではの光景である。機械よりも人のほうがよっぽど安いからだ。しかしこれでは現地の人が食えるはずがない。
 衝撃なのは、そこから現地民用に加工されるシーンに切り替わったところだ。この対比がすさまじい。すでに腐りかけた骨を不潔な軽トラに乗せ、郊外の何の建物も無い広場に持ってこられる。そこで乾燥していくのだが、すでに腐っているために乾燥とかいうレベルではなく、ウジがわいている。そこで働く人々は白衣なんて着ない。むしろ防護服でも着なければいけないような状況にもかかわらず半裸で作業をしている。その足にはウジが群がる。腐ることでアンモニアを発し、働く人々の目をつぶす。しかし、それを改善する気も無く、ただただ目を失うことを受け入れる人々…
 ただし、俺はこの産業を否定はしない。この映画が公開されたときに、この産業に対するバッシングが欧州で起こったようだが、作者が言うようにこれは誤解だ。負のサイクルと俺は書いたが、これはこの産業で引き起こったのではなく、もともとアフリカであった負の物事が、この産業にも組み込まれているだけに過ぎない。むしろこの産業によって雇用が確保されたことは大きいのだ。
 この負の面に対する解決策は?残念ながら俺にも解決策は思いつかない。すこしづつ一つ一つの問題を解決し、発展させていくしかないのだ。