「華氏911」 2004年 アメリカ

 「華氏911」を観てきました。シネ・リーブル神戸というミニシアターで観て来たのですが、すごい人でしたね。いつもは、ぱらぱらとした観客で、話題作でもなんとか満員といったところだったのですが、今回は立ち見まで出る始末。うーん、観るのやめようかなと思いました。こんなに人がいると、迷惑な客が1人はいるもんですからね。でも、観ちゃいました。
 ドキュメンタリーなので、いつもみたいにあらすじとかは書きません。とにかくこの映画はブッシュのコキ下ろし映画。911とブッシュの関係を暴いています。「華氏911」という名前の由来は、「華氏451度」というSF小説が元となっています。華氏451度は"紙が燃え始める温度"で、思想統制のために、宗教などの本がすべて焼却されてしまう未来の話です。それにたいして、「華氏911」は"自由が燃える温度"という意味です。

 <ここからネタバレ!!>
 この映画は、正直50点の出来だと思います。僕は「ボウリング・フォー・コロンバイン」が大好きで、あのアカデミー賞での「Shame on you,Mr.Bush!!」とう言葉に感動したものですから、非常に「華氏911」に期待していたのですが、そこまでのものとは思えませんでした。
 僕自身アメリカが、そしてブッシュが嫌いなのである程度のことは知っていましたし、マイケルムーア著「アホでマヌケなアメリカ白人 アホでマヌケなアメリカ白人」も読んでいたのであまり新鮮な驚きが無かったというのもあります。
 ただマイケル・ムーアドキュメンタリー映画を作る上で非常にうまいです。映像の切り取り方(ちょっと誇張が過ぎる所もあるけど)や、観客の心をつかむ術を知ってるなと感じずにはいられませんね。本だとちょっと遊びが過ぎて、また中だるみというか、飽きてくるところもあるのですが、映画になるときっちりまとめてくるなという感じがします。
 良く"マイケル・ムーアは自分の言いたいことを言うために、それにあわせて映像や情報を取ってくるので、かなり偏った主張になるのでそれが気に入らない"という人も多いようですが、そこまでわかってんなら、逆にそれに注意して中立に見ればいいのになぁ。と思ったりもします。私はそういう偏ったところも含めて好きです。嘘はついていませんし、多少嫌気がさすところもあるけど、それ以上にいい映画に仕上げているので見る価値があると思っています。
 しかし、もっともだめだと思ったのはその"映画"の部分でのことです。というのも、最後の"盛り上がり"という最も大事な部分がこの映画は足りなかったです。その理由は2点。
 ひとつは最後のお涙頂戴シーンのオカンに共感できなかったこと。共感どころか怒りさえ覚えてしまいました。確かにブッシュのためにイラクで死んだことに対する怒りは納得できます。しかし、「ブラックホーク・ダウン」のアナウンスを聞いたときに、自分の息子が犠牲にならないことを願い、しかし自分の息子が死んでしまったと知ったときにいった言葉「なぜ?なぜ私の息子が?」という部分が納得できませんでした。
 ブラックホークが墜落した時点で6人死んだとうのが確定していて、自分の息子じゃないことを願う。じゃぁ、あんたの息子じゃなければ、あんたは喜ぶんですか?きっと喜んでたでしょうね。他の家族がどこかで悲しんでるのに。そこまで悲しむのなら、なんでイラクに行く時点でもっと反対できなかったのか?なんか身勝手な感じがしてならなかった。確かに気持ちはわかるし、悲しいシーンだったけれども100%の感情移入はとてもできなかった。
 もうひとつはこの映画は決して勝利で終わらず、ブッシュへの苛立ちがつもるだけで終わってしまったということ。「ボーリング・フォー・コロンバイン」は銃社会に対しての怒りをつもらせた後に、Kマートから銃を取り扱わせなくさせ、あのチャールトン・へストンへの取材があり、チャールトン・へストンの小さい背中を撮るという勝利があった。もちろんあの映画も銃社会になる本当の根本は見つけれなかったけど、映画としては完成していたと思う。
 それに対して、今回は怒りを積もらせるだけという気がしてならなかった。これが今度の大統領選が終わり、ブッシュが落選した後にそのときの映像が含まれたら面白かったかもしれない。でも、今の大統領選の前の段階で公開しなければならないほど、ブッシュの再選の可能選が高いんだなと逆説的に感じてしまった。
 何か吹っ切れるもののない映画だった。