「カニバリストの告白」

カニバリストの告白

カニバリストの告白

 その表紙のキレイさから、昨年からずっと読みたくて仕方がない本だったのだが、ついに読んだ!最高に面白い本である。
 カニバリストとはカニバリズム(食人)する人と言う意味である。有名なカニバリストとしては「羊たちの沈黙 (特別編) [DVD]」に出てくるハンニバル・レクター博士だろう。実在の人物としても、あのエド・ゲインや日本人でも佐川一政が有名だ。
 本作は超が付くほどの一流シェフ、しかしカニバリストであるクリスプが、とある殺人容疑で逮捕されてしまう。そしてクリスプはその異常な半生を回顧録で語りだす。という形式を取っている。もちろんフィクションである。
 カニバリストカニバリズムに対する哲学に思わず引き込まれそうになる。そして何よりもクリスプが作る人肉料理が食べたくて仕方がなくなってくる。俺が食べるなら胸肉(おっぱい)を食べたい(違)。「食べる」という行為に含まれる意味とは?食人族は敵を食べることに対して、「力を手に入れる」「吸収する」という意味を見いだしていたという。クリスプ自身も「吸収主義」と自らの哲学を表していた。
 一度読み始めると、どんどん引き込まれて行く、そしてラスト近くなると、それまでのテンションがさらに上がる!文面からは高貴な雰囲気がぷんぷんただよってくる。その雰囲気に酔って、楽しんでほしい。

 あらすじ
 クリスプは愛する母の手伝いをしているうちに、料理に目覚める。さらに言うと”肉”に対して異常なまでの関心を抱く。当たり前のように料理人を目指すことになるが、父はそれを許さなかった。母の死後、父と縁を切って家を飛び出し、料理人になることを目指す。
 料理人として認められるために、「どんなことでも」やって、ついに店を持つことができた。そんなとき、あの憎き父が店にやってきて…

 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 いやいやいや、最後のドンデン返し具合が半端じゃないよ!まさか本当にクリスプはトログヴィルを殺していないなんて!てっきり「殺したのではない!芸術品に作り替えたのだ!」とか言うのかと思っていたら、本当にアナルにズッキーニを突っ込んだだけだなんて(笑)
 しかもじゃぁ誰がトログヴィルを殺したかというと、師匠とはね。しかも師匠とトログヴィルは元恋人だし、師匠とジャックも関係を持っていたし、師匠は死期が近いからとクリスプの身代わりになるわ、その死期が近いってのは嘘っぱちで、ジャックにだまされただけだなんて!!こんなラストは誰が予想できるか!
 しかも何よりも意外だったのが、クリスプは結局なんの問題も無く、店を続けることができること!てっきりさらにラストにクリスプに落とし穴があるんじゃないかと思ったら、見事に期待を裏切られて店を続けられたこと。なんか悪人(悪人という表現は正しくないが、他に形容できない…)が何のお咎めも無く成功する話ってすごいレアですよね(笑)「ハンニバル」ぐらいか?しかし、師匠は今後本当に絶望の中で過ごすことになりますよね。師匠が一番かわいそうだ…
 しかし、やっぱり欧米のこういう異常精神論を語る上でキリスト教は切っても切りはなせない対象なんですね。善と悪の対比であったり、背徳感を感じるにもキリストへの背徳感であったり、悪魔だなんだと、必ずキリスト教の概念が含まれる。この間読んだ「ジェローム神父」もそうだったし、バタイユの「目玉の話」にしてもそうだった。キリスト教について少し勉強したいと思った。もちろんクリスチャンになる気はさらさらないが、欧米の文学を理解する上で、今のキリスト教に対する知識では決定的に足りないなと。なぜ足りないかというと、だってキリスト教って嫌いなんだもん(笑)
 逆に宗教観が全くない日本の文学はもっと直接的で「そのまま」の印象を受けます。村上龍の「エクスタシー」なんかはまんまで、そこに善悪なんて概念は介さない。あくまでエロスはエロスであり、神に対する背徳ではなく、自らの信条への背徳や、相手の信条への背徳である。このストレートが俺には理解しやすく、勃起しやすい(違)