「独裁者」 1940年 アメリカ

 チャップリンの映画は「モダン・タイムス [DVD]」しか観たことが無かった。しかし、この「独裁者 コレクターズ・エディション [DVD]」のラストシーンをテレビで観た瞬間、「これは名作だ!!!」と一瞬でとりこになりました。いろいろと調べると、「映画史を変えた名シーン」といわれるぐらいの名シーンだったらしい。そらそうさ。あれはやばい。
 見た後の感想としては、間違いの無い名作。あのラストの演説は、これまで聴いたことのあるどの演説よりも、美しく、強く、希望に満ち溢れていた。

 あらすじ
 ユダヤ人の床屋のチャーリー(チャップリン)は、戦争の際に記憶を失い、病院に長くいることになる。やっと病院を抜け出したときには、祖国トメニア国は総統ヒンケルチャップリン)によってアーリア人至上主義が支配的となっていて、ユダヤ人にはつらい時代となっていた。
 記憶を失ったときに一緒にいたアーリア人のシュルツは、そのときトメニア国の高官になっていたため、チャーリーは迫害を免れるが、ヒンケルによってシュルツが逮捕されると、チャーリーにも迫害の手がのび…

 <ここからネタバレ!!>
 この映画は痛烈にナチズムを批判した映画である。ヒトラームッソリーニを模した役を徹底的に皮肉り(偽ドイツ語を良く聞くと"バナナ"とかって単語が聞こえてきたり)、迫害を受ける人間に心の豊かさを持たせた。
 それを表し、もっとも印象的なシーンとして、3つのシーンがあった。一つはチャーリーに恋をすることになるハンナが「憎しみが消えたら素敵(中略)ここに住めるならまた幸せを取り戻せる」と小さな、しかし今まで当たり前と思っていたことの大切さを語るシーン。迫害を受ける人が望む儚い夢というのは幾度と無く描かれる。
 もう一つが、ヒンケルが風船でできた地球儀で遊ぶシーン。このシーンは自分を"神"と呼ばれることに対して、自分への畏怖を感じながら、それと同時に自らへの崇敬をも表していた。その様子は世界をそのまま風船のように軽く見ていて、子供のように浅はかな考えであることを表現する。お尻で世界を突き上げ、地球儀がヒンケルの党のマークに重なる様なんて、まさに狂気だ。
 そして最後がラストシーンである。

"申し訳ない 私は皇帝になりたくない
支配はしたくない
できれば援助したい ユダヤ人も黒人も白人も"

"諸君は幸福を生み出す力を持っている
人生は美しく 自由であり すばらしいものだ!"

"人間の魂は翼を与えられていた やっと飛び始めた
虹の中に飛び始めた 希望に輝く未来に向かって
輝かしい未来が君にも私にもやって来る 我々すべてに!"

 これを上回る演説なんてあるのだろうか?これはチャーリーのセリフではなく、チャップリンの心からの願いだったんだろう。
 これは一個人の願いなんかではなく、すべての人間にとって共通の願いだ。少なくとも俺の心には響き渡った。